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“われもこう”の想い その35「洗車を続けてくれているKさん」

われもこうの花は小さい
だから誰も振り向かない
誰も気がつかない
でも、われもこうは
誰かのために 何かをしたいと
ずっと願ってる
私も、障がいのある彼らも
ただの人間
天使でも悪魔でもない
ただの人間
目立たない花だけど
力一杯咲き切りたい

令和4年2月28日 その35「洗車を続けてくれているKさん」

Kさんは、私が光が丘第三中学校時代の教え子です。
目で見た物の理解が良く、手がとても器用で自分でいろいろな物を作ってしまいます。でも、会話はなかなか成り立ちません。

中学校卒業後、おしぼりの工場に就職し、もう20年以上続いています。
会社には朝一番に行って、シャッターを開けるそうです。

土曜日も祝日も仕事で、日曜日だけお休みなのですが、その日曜日に朝からやって来て、あかねの会の車の洗車をしてくれるのです。
もう10年以上も前からやってくれています。われもこうビルができた時も、場所も教えていないのに、いつの間にかやってきて、いつの頃からか気がついたら洗車をしてくれていました。場所が離れているあかねっこ弁当に車が何台か停まっていることを知り、その駐車場には水道栓がないので、われもこうビルからわざわざ台車で水を運んで洗車してくれています。

  

洗車の道具も自分で工夫して作っているのです。
「ありがとう」と言っても、黙々と洗車を続けています。本当にありがたいと思い、Kさんの履いている靴が少し傷んでいたようなので、「お礼に靴を買ってあげるから、靴屋さんに行こう」と今まで3回ほど声をかけたことがあります。嬉しそうに一緒に靴屋さんに付いてきて、買った新しい靴を履いて、また洗車に頑張ってくれていました。

ある時、いつも自転車で来るのに、氷川台から歩いて来ているのに気がつき、「自転車、どうしたの?」と聞くと、「自転車こわれちゃった」とのこと。それは不便だろうと思い、「自転車買ってあげるよ」と言うと、「いいよ。いらない。」と初めて拒否の言葉を返されてビックリしました。
何の報酬がなくても、彼は一生懸命、毎週、洗車を続けてくれています。洗車に使う道具も自分で揃えてそこにいつの間にかわれもこうの絵を自分で描いているではありませんか!

本当にビックリしました。まさに、Kさんは“われもこう”そのものだと思いました。言葉では、上手に意思疎通できなくても、誰かの役に立つことを、報酬も、お礼の言葉がなくても黙々とやり続けてくれている存在にこちらが学ぶことが多いと本当に感じます。
日中一時支援のカラオケや、音楽クラブの時間になると、洗車道具を片付けて、みんなのいるところに来て、楽しそうに歌っています。でも、最近、コロナ禍で、飛行機に乗せるおしぼりの数が減り、時々会社がお休みになるようです。その時は朝から支援室にやってきて、支援室の仕事を黙々と手伝ってくれます。

コンサートや大きな行事の時にも、特に時間も言っていないのに、準備をしている職員の集まる時間にやってきて、手伝ってくれるのです。年に一回の大きな行事である発表会の後、よく手伝ってくれるKさん他何名かを、打ち上げ飲み会に誘うようになりました。その時に、新卒の職員が飲み過ぎて吐いてしまった時、さっとわれもこうビルの下の階から、雑巾やモップを持ってきて、綺麗にしてくれたのは、職員ではなく利用者の彼らだったのです。そして、すまなさそうにしている吐いた職員に、「大丈夫、大丈夫、そんなことも若いうちはあるから」と慰めているではありませんか!

その時、そう言ったSさんも光が丘第三中学校時代の卒業生です。この秋、長年勤めた左官屋さんを辞めて、あかねの会の就労継続支援A型事業所に入り、職員並みに仕事をこなしてくれています。
私の卒業生たちは、素晴らしい“われもこう”に育ったと自慢気に思っていたのが、今は、見習わなければならない存在になったと思っています。

そして、彼らに出会い、ここで共に生きていることの希少な幸せを大事にしたいと願っています。彼らのような“われもこう”になりたいと願いながら日々を送っています。

吉田 由紀子

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