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“われもこう”の想い その7「言葉の大切さ」

われもこうの花は小さい
だから誰も振り向かない
誰も気がつかない
でも、われもこうは
誰かのために 何かをしたいと
ずっと願ってる
私も、障がいのある彼らも
ただの人間
天使でも悪魔でもない
ただの人間
目立たない花だけど
力一杯咲き切りたい

令和2年9月8日 その7「言葉の大切さ」

就労を目指すためにコミュニケーションの力を育てることは非常に大切なことと捉えられていますが、B型ー福祉就労の場では、どうでしょうか?

療育や学校時代と違い、作業が一日の活動の大部分を占め、正に福祉就労という生活になります。B型就労支援では、作業性を高めるための支援は行われますが、言語の指導を個別で行うことはまずないでしょう。
でも、発音の明瞭度が低く、一生懸命伝えようとして話してくれても何を言っているかわからないという人が結構大勢います。何とか彼らの思いを聞き取りたい、言葉でやり取りができると彼らの生活も張りが出るだろうと思いながら、実際にはどうするか具体的には手をつけられず過ごしていた時期がありました。

就労移行支援では、会社の面接に向けて週一回ですが個別の発音指導はしていたので、その効果については手応えを感じていました。最初のきっかけは、B型に入室してきたF君でした。学校の先生も親御さんもF君が18歳まで全く自発語はないと思っていました。でも、よく行動を見ていると理解言語は育っていると感じました。何とか単語レベルでも自発で言葉を出せたらと思い、6月から個別指導を始めました。

8月に卒業後の様子を高等部の先生が見学に見えた時には、「あか」「あお」と、色カードを見てしっかり発音し、書くこともできるようになっていて、とても驚かれました。お母さんもまさか、喋れるようになると思ってなかったと言われました。人間は何才になっても伸びる可能性があるということを証明しなければと思うようになりました。満2年週一回の個別指導を続け、F君は今では七色の色名が分かり支援員の口形を確かめながら言葉で言い、書くことができるようになりました。さをり織りや刺繍の色を選ぶ時に言葉で言えるようになる日も近いでしょう。数も10までの数字と実際の物、指の数とがしっかり結びついてわかるようになり、個数が分かっていないとできない作業も取り組めるのではと期待しています。

実際のF君の変化を見てB型の現場から、誰々さんも見て欲しいと要望が出てくるようになり、今では、5名の利用者の個別言語指導を行なっています。でも、週一回程度では、なかなか改善しないので、毎日、朝礼などでも両唇音や上口蓋音の発声に取り組んでくれるようになりました。
支援員の方たちにも、発音の指導方法、概念の形成などの基本的な考え方と指導方法を身につけてもらい、日々取り組んでもらおうと言語指導の研修会を今年の夏、初めて実施しました。

STがいなければ言語指導ができないということではなく、普段の生活の中で、言語の大切さとその指導方法を知っているだけで関わり方が変わってくることを実感しました。又、ご家庭の考え方にも変化を与えられると感じています。口腔機能を高めるために、ガムを噛むようお願いしました。今年、高等部を卒業してB型に入所してきたS君のご家庭から「生まれて初めてガムを噛ませました。おいしいといって噛んでいました」と連絡帳に書かれていました。S君は数回の指導でかなり発音がはっきりし、現場の支援員がこんなに大きな声ではっきり言えるなんてとビックリするくらいの声で、「はお」「はか」と言っていたのが、「あお」「あか」と言えるようになりました。要するに母音の
「あ」の音も出せず、「は」になっていたのです。お腹を押さえ母音をしっかり出せるように何回か発声してもらいました。6階から、「ヤッホー」と、外に向かって叫んでもらいました。

次にシャボン玉をふくらませてもらおうとしましたが、最初は全くふくらまず、逆に吸ってしまいそうになるので途中で止めたりしなくてはなりませんでした。今は少しですがシャボン玉も少し膨らんで飛ぶようになり、シャボン玉の飛んでいく方をうれしそうに見ています。
一人ひとりの課題は違うので、取り組む教材もその都度考えたり作ったりしなければなりませんが、それが新鮮で楽しいです。

まだまだ、個別に関われば成長する芽をいっぱい持っている人がいると思うと個別指導をやり続けなければならない、この支援を引き続きしてくれる支援員を是非育てなければならないと強く強く感じてきている昨今です。

吉田 由紀子

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